さて、どうやって気温をごまかしましょうか(理屈の続き)
F650GSの吸気温センサーにはNTC型サーミスタが使われています。温度が上がると対数的に抵抗値が下がっていきます。
さてどういうカラクリで気温を綺麗に誤魔化すか…です。まずブースタープラグの言うところの燃料6%エンリッチをとりあえず目標にしてみます。
ちなみに6%増量は何を意味するか…
空燃比1:14.7は理想空燃比と言われています。6%燃料を増量するとどうなるかといいますと、空燃比が1.06:14.7、つまり1.00:13.8になります。この13.8は出力空燃比と言われています。一番トルクの出る空燃比ということになっています。ブースタープラグはこの空燃比13.8を狙ったものと思われます。
空気密度を6%多く見せるには気温を15度ほど低めに見せてやればよいわけです。ではこのセンサーで15度低く見せるには抵抗値をどう誤魔化せばよいかという話になります。ここはセンサーによってごまかし方が変わってきます。
以下の例はTDKのNTC型センサーによるものです(車載のセンサーとは定数が異なりますのでご参考ということで)。
青い線は標準のセンサー特性カーブです。ある気温における抵抗値を、それよりも15度低い時の抵抗値に見せかけてやるためです(仮説)。赤いカーブが目標になります。
NTCサーミスタ抵抗値は対数的にカーブしますので、固定抵抗値で下駄を履かせてもうまく行きません。特定の温度ではピシャリと合わせられますが、気温が変わりますと大きくずれていってしまいます(みどりの線が20度で+6%に合わせて固定抵抗を直列に挿入した場合のカーブになります)。
対数的に変化するカーブにコンスタントな下駄を履かせるのなら、対数的に変化する下駄を履かせる…簡単に言いますと、同じように対数的変化を見せるサーミスタ−を直列に並べるっていうのが現実的な策です。オレンジの線はこのTDKのサーミスタ−を2個直列に並べた場合の想定カーブです。だいぶ狙いの赤い線に近づいていることが見てとれます。
この固定抵抗直列パターンと、同じサーミスタ−2個直列時の空燃比はどう見えるかを見てみます。
青線はサーミスタ2個直列時、赤線は固定抵抗直列下駄時のカーブです。
先のグラフから値を目で拾っているので綺麗なグラフになっていませんが、サーミスタ2個直列下駄方式では、全温度域でほぼ同じ空燃比を維持しているのがわかります。一方固定抵抗直列下駄方式では狙いのポイントでは狙い通りの増量になっていますが、温度が変わりますと見ての通り大きくずれていきます。ブースタープラグがオリジナルのサーミスタ−を必要とするのは恐らく上記が理由であると推測できます。この辺の計算結果はブースタープラグがHPで言っているのと同じ結果になっています。
さて、理屈の見えたところで実車に付いているサーミスタ−はどういう特性なのかを把握する必要があります。WEBでいろいろ探してみましたがデータシートが見当たりません。ならば実験で求めてやろうという計画です。
で、図ってみました。
この後、お湯だの水だの氷だのを準備し、5度間隔で抵抗値変化を測定。
流石に家庭では氷点下の特性は実測できませんでした。そりゃ唯一の低温設備が冷蔵庫ですので…その先はソフトウェアに予測線を引いてもらいます。
で、このグラフからサーミスタ−2個直列モードにすると、どうなるかというと(めんどいので一気に結論へ)
なんか、いい感じじゃないですか!
ちなみにA/F比はこう見えます
青線はF6の吸気温センサー直列時、赤線は試しにF6の吸気温センサーとR1100RSの吸気温センサーを直列にした時のA/F比の見え方です(あくまで実験的測定値に基づく理論値です)。
この理論の結論を言いますと、F650GS(Songle)では、純正の吸気温度センサーを二個直列に繋いでおけば、コンピューターが余計なこと(≒O2センサーによるクローズドループ)をしない限り燃調はほぼ6%増加し、出力空燃比の燃調になるってわけですね。ホントかいな…
まぁ、あとは実際にやってみてどうなるか…です。コンピューターも常時クローズドループやっているわけではないと思いますので、オープン制御領域では燃料は濃くなりそうです。
しかし、しかしこの手はツインスパークに使えるんでしょうか…F650GSの初期型(のコンピューターファームをアップデートしてない奴)は、低速域はオープン制御やってましたので低速域では効きそうですが、たしか途中のファームから(アイドルがやたらと上がった辺り?)からかなり広範囲でクローズドループをやるようになり、燃費が改善したと聞いています。だとしたらこの手は効果なしか…?クローズドループをやられると、せっかく濃い燃料吐いてもO2センサーフィードバックでリーンバーンに戻されてしまいます…
これによれば、2000年頃のプログラムVer5000、データVer3611ってやつには効きそうです。このVerは2000回転以上でオープンループ(≒計算通りに吐く)へ移行します。新しい制御では4500回転を超えないと(5速なら100キロ出てますね)オープンループへ移行しません。つまり、それ以下では効かないと思われるので、まちなかの乗りやすさ向上には寄与しません。
ただし、この初期Verのファームウェアは環境基準を守っていないという指摘を受け直ぐに改良(改悪?)されたようです。サイテーだとかいてあります。一旦クローズドループ制御が始まったら、F6のエンジンはクソだそうです(確かにな~という印象あります)。
(なんかあれですね、VWの不正騒ぎが賑やかですが、要はこんな感じでソフトで環境対策がいろいろ変わっているということです)
4500回転でGAS増量って、レースならいざしらず街乗りではそんなの意味無いじゃんという感じです。シングルスパーク機のコンピューターでこのEU向け初期VERを発見したらみっけものかもしれません。おそらく殆どの機体はアイドル不良対策とか称して新しいコードに書き換えられていると思われますので…
※ もし車検証にガス検が要件として書かれている機体なら、下手にこの辺り触らないほうがよいかもしれません。元に戻せない改造しますと車検が通らなくなってしまいます。VW事件の後なので暫く厳しいかもしれません。ガス検要件が書いてない古い機体を手に入れていじり倒したほうが面白いです。
結論的には新しいファームを入れていたらこの改善効果は期待薄ということですが、オープン制御のインジェクション機であればおそらく絶大に効くと思われます。もしかしてこれR1100RSをオープンに戻してやったらもろに効果出るんじゃないか…?(と思って、実はR1100RSの吸気温度センサー特性も同時に測定しておきました。それはまた後日…)
ちなみに、F650GSツインスパークはコンピューターの基盤に大気圧センサーが付いていますので、高所へ登ったら調子悪い…は全く有りませんので少々リッチに振っても大丈夫と思われます。
どの機種もそうですが、このガス検が強化されたあたりの機体はどれもこれもあまりドライバビリティが良くないですね。リーンバーンがうまく制御しきれていない機体ばかり(最近はだいぶ良いみたいです。友人のR1200ST乗った時はこれがクローズドループかと驚くほ土に詰められている感じがしました)。R1100RSも、クローズドループはついていますが、導入前の機体のほうがいじって走って面白いです。ただ基本的に燃調は濃いのでマフラーがやたら煤けるとか、燃焼室がすぐカーボンだらけになるところがイマイチ。マメにヘッド降ろして清掃する人でないと付き合いきれないかもです。
(続く)
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